内閣官房長官に一任され、ときの政権が内密に使える便利なおカネが、いわゆる「官房機密費」だ。
2002年から2009年まで毎年、14億6000万円が予算計上され、内閣情報調査室の活動に充てる2億円ほどを差し引いた残りの12億円余りを官房長官の裁量で使ってきた。
野党対策や飲み食い、外遊する議員への餞別、はては女性問題の尻拭いに使われたなど、昔からとかく噂が絶えることがない。
使途は問われず、領収書はいらない、会計検査院もノータッチ。早い話、私的流用しても分からない。それでも、元手は国民が汗水流して納めた血税だ。無関心ではいられない。
今になってなぜか、このカネの使途をごく一部ながら暴露し、いわくありげな風情を漂わせているのが小渕政権で官房長官をつとめた野中広務氏だ。
先日、TBSのニュース番組でぶちまけた内容を、一昨日も、くりかえし記者団に説明した。
官邸の金庫から毎月、首相に1000万円、衆院国対委員長と参院幹事長にそれぞれ500万円、首相経験者には盆暮れに100万円ずつ渡していたという。
衆参の国対関係者に野党工作として機密費を渡していたのは政界では常識になっているが、首相経験者に、中元・歳暮にしては高額な現ナマをプレゼントしていたとは、あきれるほかはない。
それよりも、ジャーナリズムにとって深刻なのは「世論操作のため複数の政治評論家にもカネをばらまいた」という事実だ。想像はしていたが、カネを配った当の本人が言っているいるのだから、リアティは100%といえる。
「前の官房長官から引き継いだノートに、政治評論家も含め、ここにはこれだけ持って行けと書いてあった。持って行って断られたのは、田原総一朗さんただ1人」
わざわざ良い意味で名前を出してもらった田原氏はさぞ嬉しかったことだろう。
「政治家から評論家になった人が、『家を新築したから3千万円、祝いをくれ』と小渕総理に電話してきたこともあった」
あつかましい御仁もいるものだ。ペンや輪転機や電波をバックに、金品をたかるなど、ジャーナリストの風上にも置けないではないか。むろん、そうしたカネは、政権にメリットがある、つまり社会的に影響力のある大物評論家にしか渡らないだろう。
そういえばあの著名評論家・・・などと、想像してみるのもむなしいが、これでは、ペンの矛先が鈍るのもむべなるかな、である。
かつての社会党同様、地下水脈で自民党と結びつき、批判、追及ポーズをとるだけの、馴れ合い評論家だったことになる。
評論家には定年がないから、おそらく、今も活躍されているのではないだろうか。
野中氏は「国民の税金だから、政権交代を機に改めて議論し、官房機密費を無くしてもらいたい」と、このタイミングでの公表に、もっともらしい理由をつけている。まことにスジが通っているようにも聞こえる。
ただし、ここは冷静な視点も必要だ。最近の民主党批判の典型的パターンを思い起こしていただきたい。「たしかに自民党はこういうことをしてきた。しかし、民主党はその政治を変えるという期待を担って政権交代したのだから、変えられなければ国民への裏切りだ」変革の過程における試行錯誤など一切無視して、現状を断罪し、過去を免罪する。視聴者や読者を妙に納得させるレトリック。
自民党など野党はもちろん、それこそ多くの政治評論家やジャーナリストがこれを利用して、世論を誘導しているフシがある。
野中氏は、その流れを鋭く洞察し、巧みに私情とすり替えて活用しているようにも思えるのである。具体的に言うとこういうことだ。
自らが会長をつとめる全国土地改良事業団体連合会が、昔からの犬猿の仲、小沢幹事長の判断でばっさり予算を半減させられたのは周知の通りだ。
この連合会をバックにいまも自民党に影響力を持つ野中氏は、小沢幹事長に直談判したいと、幹事長室を訪ねたが、代わりに副幹事長が対応しただけでいっさい取り合ってくれなかった。
かつて、自公政権の実質的な支配者だった野中氏の胸中が屈辱と怒りにふるえたであろうことは想像に難くない。
野中氏が民主党政権に一矢を報いるには、官房機密費の暴露しかなかったのではないかと、筆者は勝手に以下のように想像するのである。
「自民党は野党対策や世論操作に官房機密費を使ってきたが、これは本来、好ましいことではない。民主党にはこれを無くしてもらい、正しい政治を進めていいってほしい」
そう言えば麗しく聞こえるのを計算した上で、年間12億円という官邸の資金を封じ込める圧力をかけているのではないか。
民主党政権の難しさは、民主主義的手続きを踏む必要がある以上、一気に官僚統治機構を改革するのは、現実には無理であること。
だからといって、現実に妥協して自民党政権に似たことをすれば批判されるということであろう。
野中氏がそういう民主党政権の難局を見透かし、あえて過去の自民党政権の暗部をさらけ出して官邸資金を揺さぶっているとすれば、相変わらずの怪人ぶりといえるだろう。
ところで、官房機密費といえば、河村建夫・前官房長官の一件はどうなっているのだろうか。
自民党が衆院選で敗北し、政権交代が決まった2日後に麻生内閣の河村官房長官が通常の2.5倍、2億5000万円を引き出した。
河村氏はいったい何に使ったのか。選挙資金の穴埋めとか諸説が乱れ飛んだ。本来、もはや実質的には政権を失った状況で、それほどの巨額資金を使う正当な理由があるとは思えない。
大阪市の市民団体「公金の違法な使用をただす会」のメンバー39人が背任容疑などで河村氏を東京地検特捜部に告発したのはその意味でしごく当然であるが、いまだに東京地検が捜査に乗り出したという話を聞かない。
河村氏を告発した原告代理人のひとり、辻公雄弁護士は野中氏の発言で官房機密費の実態がはっきりしたとして、東京地検に証拠資料の請求をしたという。
常識的な「市民感情」から言えば、政治資金収支報告書における記載期日のズレよりも、2億5000万円もの公金の使途こそ、法廷で明らかにしてもらいたい重大な問題なのではないだろうか。
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この官房機密費の話は、自民党一党支配の間に日本のマスコミがいかに腐っていたかを表わす出来事だと思います。
今になって、テレビで常に自民党の側に立ってテレビで、当時の野党のことを悪し様に言っていた評論家が、自分は貰っていないと弁解している姿は、力士出身の相撲評論家が自分は賭博のことは知らないと言い訳しているのと、実によく似た景色となっています。そもそも官房機密費を貰っていなければ、あんなに偏ったことを言うはずがないのです。野党には政権担当能力が無い、自民党が政権を失えば一日で日本は滅んでしまう、なんてことを平気で言えるはずがありません。 自民党政権時代には、新聞に、「政府高官がこう語った」という記事がよく載りました。書いた記者は誰が言ったのかちゃんと知っているのに、意図的に発言者の名を国民に教えないのです。書かせた者の腹積りでは、政府高官などという匿名で記事を書かせておき、党内に不評であれば発言者不明のままうやむやにしてしまい、党内の支持が集まりそうであれば改めて名を出して言う、ということでした。
新聞記者が政府の要人が党内に探りをいれることに、紙面を使って協力することそのものがマスコミとしては自殺行為なのですが、スーツの仕立券などを貰っている新聞記者は平気でやっていたわけです。そういう新聞は読者の知る権利など丸で考えていないといえます。
今のマスコミの民主党に対する報道ぶりを見ていると、官房機密費からお金やスーツ券が貰えなくなった、既得権を取り上げられたことへの嫌がらせで悪く書いているとしか思えないものがあります。